まだ、心の準備できてません!
元々人通りが少ない道だけれど、今は私と浅野さんしかいない。

半径一メートルほどの距離に近付いた私達は、黙って見つめ合った。


昨日、お父さんが倒れたことを浅野さんのせいにしてしまったばかりで、少し気まずいけれど、それより聞きたいことがたくさんある。

冷たい空気を吸い込んで、私が先に言葉を発した。


「どうして、ここに……? 出張だったんじゃないんですか?」

「一日繰り上げて帰ってきた。……君に、早く伝えたいことがあって」


今にも完全な雪に変わりそうなみぞれが降り始める中、真剣な表情の彼にドキリとする。

伝えたいことって、やっぱり……。


「嘘をついていたこと、ですか?」


眉根を寄せつつ聞くけれど、浅野さんは特別驚いた様子もない。


「誰かから聞いたのか」

「トワルに行って、社長とお話してきたんです。そうしたら、合併なんて話はないって……」


不信感を露わにしながら重い口調で言うと、浅野さんはふっと笑いを漏らす。


「さすが、美玲は度胸があるな」

「ごまかさないでください!」


こっちはものすごく悩んでいるっていうのに、軽く笑う彼についカッとなって、声を荒げてしまった。

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