まだ、心の準備できてません!
◇恋に落ちた、その後は
今まで抑えていた分、その反動は大きくて、何度くっついても唇が離れたがらない。
けれど、ふいに睫毛に付いた雪の冷たさに気付いてうっすら目を開くと、夏輝さんも少しだけ唇を離した。
鼻先を触れ合わせながら、艶やかな笑みを浮かべる彼は吐息交じりに囁く。
「……まだ、全然足りない」
ドキン、と性懲りもなく胸が高鳴ってしまう。かく言う私も、同じ気持ちなのだけど。
でも、いくらほとんど人通りがないと言っても、ここは民家が立ち並ぶ道路。
それに私、今日はまだ予定があるんだった!
今さらながらそのことを思い出し、夏輝さんの腕を掴んでぱっと身体を離す。
「あっ、あ、あの! 私、行かなきゃいけない所があるんで!」
ゆでタコみたいに真っ赤になっているだろう顔で言うと、彼はいつものクールな表情に戻る。
「あぁ……真白さんのところ?」
「それもそうなんですけど、お母さんのお墓参りに行こうと思ってて。実は、明日が命日なんです」
本当なら明日行くつもりだったのだけど、お父さんがいないために仕事は抜けられなくなってしまった。
だから今日行くことにしたのだと伝えると、夏輝さんはほんの少し思案して、こう言った。