まだ、心の準備できてません!

ハーティを出ると、隣の八百屋の軒下で夏輝さんが待っていた。

花束を抱えて駆け寄り、彼を見上げて言う。


「ちゃんと、けじめをつけてきました」

「……そうか」


浅く頷いて、安堵したように表情を緩める彼は、陽介とのことを何も問い詰めたりはしない。

私もそれ以上は何も言わず、再びふたり並んで駐車場に向かって歩き始めた。



夏輝さんの黒光りする高級そうな車の助手席に乗り込み、お母さんが眠る霊園に向かう。

そういえば、男の人の車に乗せてもらうのも、お父さん以外ではほぼ初めてかも。

ちらりと運転する彼を見やると、片手で容易くハンドルをさばく姿が案の定カッコ良すぎて、私はひとりドキドキしていた。


夏輝さんのマンションを教えてもらったりしながら、約二十分ほど走ると、小高い丘の上にいくつもの黒い石が立ち並んでいるのが見えてくる。

駐車場に入るけれど、車は一台もいない。

毎年この時期にお墓参りに来る人はあまりいないけれど、今日も雪が舞っているためか私達しかいないようだ。


花束と水を汲んだ桶やタオルを持って、静かな霊園を歩き、真白家の墓前にやってきた。

かじかむ手で軽く墓石の掃除をしながら、ひとりでお母さんに語り掛ける。

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