まだ、心の準備できてません!
「お母さん。お父さんってばダウンしちゃって来れなかったんだ。代わり……ってわけじゃないけど、今日は夏輝さんが来てくれたんだよ」


と言っても、夏輝さんって誰だかわかんないよね。

自分にツッコミを入れていると、しゃがんで花立を洗ってくれていた彼がその手を止め、墓石を見つめて口を開く。


「……お久しぶりです。ミキ先生」


敬愛を込めたような、優しい声で放たれた一言。

私は目をぱちくりさせて固まってしまう。


「…………へ? ミキ、先生?」


数秒の沈黙の後、私はぽかんとしたまま途切れ途切れに言葉を漏らした。

“先生”って、まさか……!?

私の考えを肯定するように、夏輝さんはふっと口角を上げて言う。


「美紀子(ミキコ)先生は、俺が保育園に行ってた時の担任だったんだ」

「え……えぇぇ~~!?」


驚愕の叫び声が辺りに響き渡る。

静かにしなければいけないけど、抑えられなかった。

だってだって……夏輝さんがお母さんの教え子だったなんて!!

驚きでそれ以上声を出せずにいる私に、彼はおかしそうに笑う。


「美紀子先生って呼びづらいだろ? だからミキって呼んでたんだ、“先生”も付けずに。生意気だけど」

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