まだ、心の準備できてません!
「……うん、そう。晴菜もデートしてたんだね」

「あぁ、あたしはデートじゃないの。あの人はただの友達」


晴菜はないない、と言うように手を振り、あっけらかんと笑った。

本当なのか疑わしいところだけど、とりあえず「そうなんだ」と相槌を打っておく。

冷めている私とは正反対に、夏輝さんに可愛らしく会釈して挨拶した彼女は、興奮気味に話してくる。


「超イケメンじゃない! どうやって捕まえたの? 大人だしスタイルもいいし、すっごいあたしの好み!」


最後のフレーズに、ピクッと反応してしまった。

“あたしの好み”って……まさか、またあの病気が出ちゃいそうな感じ?

呆れるとともに、忌まわしい過去がまざまざと蘇る。

けれど、お祭りの時のような逃げ出したい気持ちにはならない。今は、対抗してやろうと思うくらい強気だ。

それはきっと、本気で愛する相手を見付けたから。


私は息を吸い込むと、色めき立つ晴菜を挑戦的な目で見据えて言い放つ。


「……そうでしょう。私も大好きなの」


そう来るとは思わなかったのか、彼女は意表をつかれたように口をつぐんで目をしばたたかせる。


「こんなに好きになったのは初めてで、この人だけは絶対に手放すつもりはないんだ。何があっても」

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