まだ、心の準備できてません!
「知らなかったな、美玲がそんなに俺のことを想ってくれてたなんて」

「……言ってなかったですからね」


からかうような口調で言われ、かぁっと顔を熱くしながら、照れ隠しでつい可愛いげのないことを言ってしまった。

そんな私を優しく抱きすくめ、彼は甘い声で囁く。


「もう一度聞かせてよ。俺に向けて、ちゃんと」

「そ、そうやって言われると言いにくい……!」


というかその前に、ここは教会の手前で結構人もいる。こんなことしているから、すでにかなり注目されてるし!

さっきは勢いで口から飛び出たけど、この状況じゃ無理ですって!

言い訳していると、彼のとんでもない一言が私の体温を上昇させる。


「……じゃあ、ベッドの中でなら言える?」


──心臓が大きな悲鳴を上げた。

やっぱり、今夜私達は……。

急にこの夜が妖しく彩り始めた気がして、ありえないほど鼓動が速くなる。

でも、決して嫌なんかじゃない。

頷くことも、首を横に振ることも出来ないけれど、心の奥底では私もそれを望んでいることに、きっと夏輝さんは気付いている。


色めく微笑みを向けた彼は、再び私の手を取って歩き始める。

乗り込んだ車は、輝く街の景色も目に入らないほど緊張する私を乗せ、彼のマンションへと走り出した。


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