まだ、心の準備できてません!
◇かりそめのお祭りデート
謎のイケメン、夏輝さんのことは気になったものの、それからすぐ棚卸しに追われて、彼のことは頭から追い出されていた。
少ない人数ですべての商品の在庫を調べるのは、毎月かなりの労力を使う。
今月も棚卸表とペンを手に、総動員で行ったのだった。
その翌日は、お祭りであり私の誕生日。
お父さんは準備のために五時前には店を出ていき、女性陣三人で閉店の七時まで働くことに。
六時にもなると、お祭り効果で商店街の前を通る人が普段の倍以上多くなっている。
「えっ、美玲ちゃん、陽介くんとお祭り行くの?」
レジのカウンター近くで品出しをしていた浜名さんが、目を丸くしている。
どうやら阿部さんから聞いたらしい。彼女には話の流れで言ってあったから。
「そうなんです。私も久々に行きたいなと思ってたら、ちょうど誘ってくれて」
私は毎日の日課である、店内のモップ掛けをしながら言った。
浜名さんは、レジのカウンターの中にいる阿部さんとニンマリと笑い合う。
「陽介くんもついに仕掛けてきたわね」
「遅いくらいよ。あの子ってば奥手なんだから。でもそこが可愛いんだけどね」
何やらコソコソと話す二人だけど、私にもバッチリ聞こえている。