まだ、心の準備できてません!
ダイニングテーブルには、食べ終えた食器がそのままで、解かれたプレゼントのリボンも置かれたまま。

グラスに残っていたシャンパンの炭酸も抜けてしまった頃、私はベッドで骨抜きにされていた。


艶めく声でお互いの名前を呼んで、甘く痺れるような快感に溺れて。

彼の背中に爪を立てて、飛んでしまいそうな意識を必死で繋ぎ止める。

そうしてふたりの限界に達し、力を抜いて抱きしめ合った時、私の口から吐息と一緒に自然と言葉がこぼれた。


「……愛してる」


去年は“大好き”って言ったんだっけ。ちょっと成長したかな。

なんて、波にたゆたうようにゆらゆらとした脳内でぼんやり思う。

夏輝さんは私の首筋に埋めていた顔を上げ、満足げな笑みを浮かべて言う。


「よく出来ました。ご褒美あげなきゃな」


また、何かくれるの?と思いながらも、髪を撫でてくれる手が心地良くて、急激に瞼が重くなる。


「夏輝さんがいれば……それで十分ですけど……」

「そういうこと言うと寝かせたくなくなるだろ」


苦笑する彼に、目をとろんとさせたまま微笑んだ。

綺麗な顔が近付けられ、吐息が重なるのを感じながらゆっくり瞳を閉じる。


「俺も……ずっと愛してるよ」


シンプルで極上なフレーズと唇の熱に溶かされるように、私はすうっと眠りに落ちていった。

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