まだ、心の準備できてません!
……あれ、私、陽介相手に珍しくドキッとしちゃってる?

いやいや、癒し系の熱帯魚にそんなことは……。

ぐるぐると考えていると、ふいに私に向けられた瞳と目が合う。


「ね、から揚げ食べない? 僕お腹空いちゃった」

「あ、うん! 私も」


“からあげ”と大きく書かれた屋台を指差す陽介に、私も笑みを見せて頷いた。

商店街から繋がる橋を渡ると、川沿いの道にたくさん屋台が並んでいる。いつの間にかそこまで歩いていた。

陽介が紙コップに入ったから揚げを買い、串に刺して私の口元に近付けてくる。


「はい、あーん」

「いいよ、自分で食べるから」


少し身を引いて拒否すると、陽介はいたずらっぽく口角を上げる。


「あ、照れてるんだ?」

「違う」


……本当はちょっと当たってるけど。

ぷいとそっぽを向く私に、陽介はクスッと笑う。


「花束持ってるから食べづらいでしょ? 素直に甘えなって」


……なんか、陽介が余裕かましてる感じで、ちょっと悔しい。いつもと立場が逆転しちゃってるよ。

ちら、と彼に目線を向けると、ニコニコしながらから揚げを差し出している。


「熱帯魚にはこんなこと出来ないからね?」


自虐っぽいことを得意げに言う彼に、私は思わず吹き出してしまった。

< 36 / 325 >

この作品をシェア

pagetop