まだ、心の準備できてません!
──ドキンと、もう花火が上がったかのような音が、こめかみの辺りで響いた。

今の言葉の意味は、考えなくてもわかってしまう。

目を見開いた私は、くりっとした二重の瞳を見つめる。

彼はほんの少し苦しげな表情で、握ったままの手に力を込めた。


「僕はさ、ずっと友達って関係から抜け出したかったんだよ。ずっと」

「陽介……」


やっぱり、陽介は私のことを──。

“ずっと”と強調するように繰り返し言うほど、昔から私を想ってくれていたの?


彼が好意を持ってくれているのは伝わってきたけど、私は恋愛感情じゃなければいいなと思っていた。友情を壊したくはなくて。

でも、こうしてまっすぐ気持ちを向けられると、素直に嬉しい。

手を繋いでも嫌じゃないし、むしろこのぬくもりに触れていたい気もする。


今まで遠ざかっていた恋愛も、もしかしたらまた始めることが出来る? 陽介となら──。


「そのバラの花言葉が、僕の気持ちだから」


彼は私の左手に持たれた花束を見下ろして言った。

花言葉……何なんだろう。

激しくはないけれど、心地良いドキドキ感を抱きながら、期待を膨らませる。こんなにあっさりと自分の気持ちが揺らいでいることにも驚きつつ。


「花言葉は──」


陽介が口にしようとした、その瞬間。

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