まだ、心の準備できてません!
私を掴む手の力を強くして、陽介がきっぱりと言った。

私は地面に横たわったままの花束を目に映しながら、眉を下げる。


「どうして逃げるの? ……高校時代のこと、思い出しちゃった?」


遠慮がちに尋ねる陽介に、私はふっと嘲笑を漏らした。


「……私、いまだにあの時のこと引きずっちゃってるみたい。情けないね」


自分でも驚いている。七年も前のことなのに、晴菜の顔を見ただけで、こんなに拒否反応が起こってしまうなんて。

もうふっ切れたかと思っていた。そろそろ私も、新しい恋が出来るかもしれないと思ったのに。

こうして、私を追ってくれる陽介と──。


目線を上げると、切なげな顔をした陽介が私を見つめている。

キリキリと痛む胸を我慢して、目を逸らさずに口を開く。


「やっぱり私、まだ誰とも付き合う気になれない。陽介とも……ずっと友達でいたい」


彼の手の力がふっと緩み、手首が離された。


晴菜とのことがなくても、やっぱり私は陽介とは付き合えない。……そう思う。

もう一度恋愛をしたいと強く思えるような、自分が溺れるくらい好きになった人じゃないと、きっとダメなんだよ。

陽介に対しては、その気力が出ないから……。

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