まだ、心の準備できてません!
私は落ちた花束を拾い上げ、大切に抱える。


「本当に、ごめんね陽介……。でもこの花束、すごく嬉しかった。ありがとう」


少しだけ笑みを見せながら言った。けれど、眉根を寄せて目を伏せたままの彼に、どうしようもなく胸が痛む。

本当にごめん……。

もう一度心の中で謝ってから、私はくるりと背を向けた。


「みーちゃん」


数歩進み出したところで呼び止められ、足を止めた。

振り向くと、街灯にふわりと照らされたベージュの髪の毛の下で、真剣な瞳が私を見つめている。

その彼が、力強さを取り戻した声を放つ。


「僕は、あの先輩とは違うよ」


──ドクン、と胸が音を立てた。

あまり思い出したくはない、大好きだった人の姿が脳裏に浮かぶ。


「好きな人を絶対に裏切らないし、悲しませるようなこともしない。……それだけは、覚えておいて」


陽介の真剣な言葉が、胸をぎゅっと締め付けた。

諦めを感じさせない彼の強い気持ちが嬉しくもあり、苦しくもある。

頭の中が、心が混乱して、自分の思考や感情に収拾がつかない──。


私は何も言うことが出来ないまま、再び陽介に背を向けて、暗がりの中を走り始めた。




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