まだ、心の準備できてません!
自転車に乗って少し乱れたミディアムヘアを手ぐしでふんわりと直し、黒いエプロンを付けたら業務開始だ。

店内と店先の掃除をして午前十時に開店し、品物が納品されたら、チェックをして片付けたり棚に並べたり。

高校を卒業してかれこれ五年、毎日このなんてことない仕事を続けている。


コンビニを二倍にしたくらいの広さのマシロは、私とお父さん、浜名さんともう一人のパートさんの計四人が働く、小さな店。

商品は卸売業者から取り寄せ、店頭ではそれを小分けにして売り、お得意様には小ロットでの販売も対応している小売業だ。

小さい頃、お母さんを事故で亡くしてから、私にとってはここが第二の家みたいなもの。

大学へ進学したいとか、都会へ行きたいとか、新しい場所へ飛び出したいと思ったことは多々あるけれど、温かい人達に囲まれて生活するのは、やっぱり心地良い。



「みーちゃん、お疲れ様」

「陽介!」


お昼前、ワイシャツにチノパン姿の、可愛らしい顔に笑みを浮かべたイケメンくんがやってきた。

この同級生の笹原陽介(ササハラ ヨウスケ)も、マシロを利用してくれるお客様であり、私を取り巻く居心地が良い人の中の一人だ。

彼は出入り口から真正面にあるレジにいる私に、購入する資材の品名が書かれた紙を渡してくる。


「これちょうだい」

「はいはい」

「あと、美玲ちゃんも」


カウンター越しに紙を受け取ったまま、ぴたりと静止する私。

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