まだ、心の準備できてません!
◆甘く強引に迫られて
川沿いの通りを走った私は、再び商店街に戻ってきた。
少し息を切らせながら、楽しそうに歩く人達とすれ違って、マシロに置きっぱなしだった自転車を取りに行く。
楽しいお祭りと誕生日を過ごすはずが、まさかこんなことになるとは……。
「ほんと……ツイてない」
渇いた笑いを漏らして、少し元気がなくなったように見える花束から、目線を上げた。
すると、もう閉店しているはずのマシロの前辺りで、一人の人物が佇んでいることに気付く。
あれは……と、その人をしっかり確認しようと早足で近付いていった、その時。
──ドーン!と豪快な弾ける音が響き渡り、真上に大きな花が咲いた。
ぱらぱらと落ちる光の粒に、ある人の姿が照らされる。私は花火よりも、その人に釘付けになってしまった。
「夏、輝さん……!?」
闇夜に溶け込むダークグレーのスーツ、長身で端整な顔に、大人でクールな印象のショートヘア。
その男性は、間違いなく夏輝さんだ。
いつもと少し違うのは、彼が煙草をくゆらせていること。
立ち止まって目を開く私に気付いた彼は、ふっと優しげな笑みを漏らす。
携帯灰皿に煙草を押し付けると、こちらに向かって歩いてきた。