まだ、心の準備できてません!
◆曖昧ボーイフレンド
それから数日間は、陽介にも夏輝さんにも会わず、いたって平穏な日々を過ごしていた。
ただ、ひとつ気掛かりなことと言えば……。
「お父さん、アザミとタケちゃんに持ってく分用意し終わったよー」
“アザミ”は市街地にある地域密着型のスーパーで、“タケちゃん”という微笑ましい名前はお弁当屋さん。
この二カ所に届ける分の容器を箱に詰め終わった私は、言いながら事務所のドアを開けた。
しかし、パソコンの画面の一点を、ぼうっと見つめたまま動かないお父さんに首をかしげる。
「お父さん?」
彼が座るデスクの真ん前に近付くと、ようやく私に気付いて顔を上げた。
「ん、あぁ悪い、どうした?」
いつものように笑うお父さんだけど、この間からこういうことが多くて、なんだか心配になる。
「お父さん、最近なんかムズカシイ顔してること多いけど、何かあったの?」
「いや、ちょっと帳簿の整理に苦戦してただけさ」
軽く笑うお父さんの手元に乱雑に広げられた書類には、たくさんの数字が並んでいる。
簡単な発注なら私もやれるけれど、他のことはすべてお父さん任せだから、ちらっと見ただけでは何で悩んでいるのかわからない。