まだ、心の準備できてません！
「……そう、かもね。もっと強引な人の方がいいのかも」


喫煙席で煙をくゆらせるお客さんを眺めながら、ぽつりと呟いた。

ふと視線を感じて隣を向くと、由香が私をじっと見つめていることに気付く。


「ん、どうかした？」

「……美玲、まだ何か話してないことあるんじゃないの？」


ほんの少しギクリとする。

由香には相談しようと思っていたからいいのだけど、見事に当てられてしまったから。


「え、何で……？」

「だって、美玲が“強引な人がいい”なんて言うの、違和感ありまくりだもん！　今まで“そんなのどうでもいいよー”みたいな感じだったのに！」


あぁ、そう言われてみればそうか。

「どうなのどうなの？」と、小型犬みたいに腕にまとわりついて来る彼女に、私は苦笑を浮かべて頭を掻く。


「由香って天然なくせに変なとこ鋭いよね……」

「やった、当たり！？　っていうか、あたし天然じゃないってば」


私の腕を軽く叩き、天然だと認めないのは昔からだ。

そうこうしているうちに、陽介が戻ってくる。

彼を見た由香は、私の耳に背伸びして顔を近付け、「今日、美玲が仕事終わったら会お！」と約束を取り付けたのだった。


< 98 / 325 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop