ひと夏の救い

隣に視線を移すと、相変わらず眠そうに欠伸を繰り返す奈良坂君の姿が目に入った。

奈良坂君は、基本的に誰とも話さないし、話すとしても最低限。いつも寝ているからよ。澄晴や東雲君が話しかける時には結構喋っている方かも。見た目はフワフワした髪の毛に垂れた目じりが優しそうで可愛い、とのこと。けれど、やっぱり皆話したことが無いからか、ただいつも眠そうな『眠り姫』ならぬ『眠り王子』として、ほとんど鑑賞対象みたいになっているわ。

ある意味孤高の存在というか、私から見ると案外、警戒心が強いひとに見える。話してみたら大抵短い返事しか帰ってこないけれど、その間になんだか探られているというか、眠そうな目はフワフワした印象とは反対に随分としっかり目を合わせてくるのが、少しだけ底がしれないと思う。
そうは言っても、私の主観でしかないけれどね。


奈良坂君を見ていると、ついついさっきの変な場面を思い出してしまいそうになって、ぐっと唇に力を込める。
もう、忘れるって決めたんだから!別に、大したことでもないのだし!!

あんまり激しくすると目線を集めてしまうと思ったから、
小さく一度だけ首を振って、隣の木下君に視線移す。

この人はそうね。よく言えば素直、悪くいえば単純な性格。子供っぽくていまいち会話が通じないことがあるけれど、運動神経は紛うことなきトップ。学年の中でなら確実に一二を争う才能を持っているわ。体育の時にはクラスメイトの男子達に頼りにされていて、けれど人懐っこい性格のおかげか、その才能に嫉妬して木下君を嫌うような人物はいない。

女子の中では運動が出来る子はもちろん、大人しめの読書が似合うような子まで憧れの視線が多い。しかしその代わり全く勉強が出来ないのが難点ね。とはいっても、人を気遣ったりフォローするのがとても上手な世渡り上手だから、軽口を叩かれつつも先生方からも可愛がられているみたい。随分、恵まれていて羨ましいわ。嫌味じゃないわよ?ほんとうに思うの。

そして最後に、澄晴。

女子からの人気が1番高いのは確実にこの男ね。茶色い髪の毛を今風に整えていて、制服もギリギリまで着崩しているけれど、下品ではなく、確かに似合っている。センスが良いのかしら。意外にもピアスやアクセサリーをつけているところは見たことが無い。案外真面目なのかなんなのか分からないけれど、そんなものがなくても一切華やかさは落ちている感じがしないのは、一体何なのかしら。

コミュニケーション能力が高くて、誰にでも話しかけるし、話した人間は正反対のような生真面目な人間でも好感を持たれているのが不思議ね。それが女子生徒だったりすると、百発百中で落ちる。らしいわ。あくまで近くで話していた女子の話しよ。私は机に突っ伏して寝ていただけだから!

『王子四人衆』の中でも1番ファン?が多いらしいわね。と言っても、その隠れファンクラブに加入しているのははほとんどが女子だから、実際の人気順なんて分からないけれど。


とにかく言えるのは、この『王子四人衆』っていう変人たちは、随分とこの学校で注目されている存在って言う事ね。

私なんかに近づいて来る時点で、私の印象は『超変人』の一択なんだけど。

もちろんわたしは学校の中でも危険人物として捉えられているわよ?
ちょっと不本意だけれど、それで人が近づいて来ないなら、それで良いのかもしれない。そう思って、肯定も否定もした事はないわ。これからも、きっとしない。



< 102 / 145 >

この作品をシェア

pagetop