ひと夏の救い
数十分前…


「ねえ、やっぱりあの…これは良いんじゃないかしら」
「これって?」
「だから…手を」
「手?アッキーの手は小さくて可愛いね」
「…。」
「で、何が良いんじゃないかなの?」
「…何でも、ないわ」
「そ〜?」

なにこれ何これ!
澄晴と接するとしばしば起こる謎のスムーズさはどこから来ているの?
どうしましょう。恥ずかしい…顔から火が出そう。どうしてこんなに恥ずかしいのかしら。分からないけれど、とっても恥ずかしいわ…

ちらりとバレないように少しだけ目を横に向ける。

澄晴はさっきから上機嫌でやたら音程が正確な鼻唄を歌っている。

すると前を見ていたはずの目がこちらを向いて、慌てて逸らして平然を装ったけれど、タイミング良く握られている手にきゅっと緩く力が入って遊ばれる所からして、見ていたことがバレている…。

うぐぐ、と唸ってしまいそうになったけれど、あんまり分かりやすすぎるのも恥ずかしいし悔しいしで、顔を反対の斜め前に向けて小さな反抗をした。
今度は澄晴からくすりと小さな笑い声が聞こえる。

まるで私が考えている事を看破されているみたいでまた一段と恥ずかしいやら悔しいやら。…どうすればいいの?






一方、その他の三人…


後ろを歩く二人を見てヒソヒソと木下誠が囁きかける。

「なあ、なんであの二人の周りで砂糖みたいなあっまい匂いするんだ??」
「あれはなぁ、まあ…青春だな」
「僕達も、まだ中学生なのに…穂積が爺クサイ」
「青春て甘いのか?青春って部活で仲間と一緒に世界一目指すとかじゃなかったっけ??」
「それは青春スポーツドラマだな、系統がちょっと違う。というか世界一はデカすぎじゃないか?」
「そこは普通…全国大会」
「あ、それだ!」
「ま、とりあえず、そっとしといてやろうな」
「ん…」「おう!」


友人達を密かに見守る会が発足した瞬間であった。

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