ひと夏の救い
そういえば、と思った。
今歩くまま行った先には私と澄晴と奈良坂君のクラスがある。毎日通る廊下をこんな暗い夜に通るのは不思議な感じがした。自然、男子4人は新鮮だとかいう話題を出しながら歩いている。
それを横目でみている時、何がきっかけというわけでも無いけれど、最近よく自分の持ち物が無くなってしまう事を思い出した。
自分が無くしたなら気にしても仕方ないけれど、明らかにおかしな頻度起きているから。
ああそういえば、私の持ち物を持ち去っているのは誰だったのかしら。って。
あの肉食的な女子達の仕業なのか、現行を見ていないから正直確信を持つには足らないけれど、私をよく思わない人間が多いのは薄々分かってる。
今はお小遣いで小さな物は何とか補充しているけれど、お金の不安というよりは無くしているのを両親に知られたく無いというのが大きい。
ばれてしまったら『どうせ』私のせいになるから、そうなると面倒くさいもの。
盗るとしたら、一体いつなのか。
一番人気がない時間帯といえば、今みたいな夜とか、早朝とかだけれど。もし早朝だったら、朝とってから放課後までは確実にずっと持っていることになるし、それは頻度的に考えてリスクが大きすぎる気がする。
だからって夜に学校に忍び込んでっていうのも現実味は無いけれど、朝に比べれば警戒する対象はそう多くないわ。
でもそこまでして私に嫌がらせしたいだなんて、相当、私に執着しているのかしら…
そう思うとゾッと背筋が凍るような悪寒がして、夏だから暑いはずなのに自分の喉の奥がひくついて鳥肌が立った。
もし、そんな人物と毎日近い場所で過ごしていたんだとしたら…
「アッキー、大丈夫?」
「…え?」
「えじゃないよ。顔色悪い、どうかした?」
どうして、わかったんだろう。
一番多く会う両親でさえ、体調が悪い時に気づくことも無いのに。
話したことのある人だって、裏では私が何考えているか分からなくて怖いって言うのに。
触り心地の良さそうな茶髪が揺れて、澄晴が私の顔を覗き込む。
ふわふわする変な感じがしてこれが何なのかよく分からないけれど、でも甘受してはいけない、その資格が自分に無いことだけはわかって唇を引き締めた。
「……なんでも無いわ。暗いから、見間違えたんでしょう」
「でも」
顔を背けるのと同時に、手を離した。
視界の端に私の手を追いかける澄晴の手が見えてまた心臓がぎゅっと苦しくなったけれど、知らんぷりをして前を向いた。
私は平気よ。自分一人でいたって、死ぬわけじゃ無いもの。
放っといてくれればいい。私は平気だから、ちゃんと『迷惑かけない』ようにするから。
自分の中で精一杯、安心させられそうな表情を貼り付けて振り返った。
「行きましょ」
「…うん」
離れた手をじっと見ていた澄晴が顔を上げて私を見た時、一瞬悲しそうに顔が歪んだ気がしたけれど、それも一瞬の後にヘラヘラした笑顔に戻っていた。