ひと夏の救い
ある日彼女は、まろくて少女特有のもちもちの頬を可愛らしく赤らめて私に打ち明けてくれた。
「あのね?うちね、○○が好きなの…」
自分のことを『うち』と呼ぶのが流行っていた時で、名前で自分を呼んでいた彼女もその頃、他の子のようにそうしていた。
もじもじと指を動かしながらいう彼女はとても微笑ましくて思わず口が緩んでしまいそうになったけれど、それはさすがに失礼だよね、と我慢した。
彼女のいう○○くんとは、クラスでも中心にいるムードメーカー的存在で、人に疎い私でも知っている人物だった。
もちろん私は快く協力を申し出た。
とはいえ経験もない私が力になれるかどうか分からないから不安だったけれど、そう伝えると、その子は陽が射したような明るい笑顔で喜んでありがとうと言ってくれたので、ほっとして私は笑った。
彼女はすでに相手と名前で呼び合うほどの仲だから、経験のない浅はかな見識の私でも、きっと彼女の希望を叶えるのに大した時間はかからないと思っていた。
彼女は多い人脈(友達が多い)を使って、他の子にも協力をお願いしているようだったのも、そう思った理由の一つ。よほど本気らしいと少し驚いたけれど、その子たちの協力で○○くんの側に連れていかれた時なんて、相手が気付かないなんて事があるのかな?というくらい顔を赤くしていた。
それでも健気に笑って○○くんの気を引こうと身振り手振り頑張っている彼女は本当に可愛くて、自分もできるかぎり応援したいなと、本当に思った。
「好きです」
今日はあの子が○○くんについに告白するんだと、とても緊張した様子で朝、○○くんの下駄箱に手紙を入れているのを真横で見ていた。
放課後、階段脇の人気のない場所でするといっていて、付き添うかと聞いたら、大丈夫、頑張ると言って大好きな笑顔を見せてくれた。
心配だけれど、きっと彼女なら上手くいく、私がいては野暮だわと思って、月並みな言葉で応援して、手を振って別れた。
それから下駄箱で靴を履き替えて前を見ると、そこに○○くんが立っていた。
どうして…?あの子のところに行ったんじゃないの?
もしかして手紙では場所が分かりずらかったから、親友の私に聞きに来たのかしら、とそんな事を暢気に思っていた私は、口を開こうとしたまま結局何も口に出せなかった。
目の前の彼は見るからに緊張している。
目と肩は強ばって、周りの子より少し大きい背で私を数センチ上から見下ろしていた。今のセリフは、彼の口から出たものだった。
私は何も言えなくて、下に目を下ろすと、彼の手にはあの子が送った手紙が握られているのが見える。
その時、もしかして勘違いしてしまったのかしら?と思った。
便箋の裏に名前があるけれど、私がピンク色を好まないことが周知の事実であっても、きっとそうなのかもしれないわ、と思った。
「あのね、それ、私じゃないの。あの子はあっちに…」
「知ってる。でも、おれも今日、言おうと思ってたんだ」
二の句が継げない私が何も言えずにいると、彼の方はスラスラ続けた。
曰く、初めて見た時から好きだった。可愛いと思ってた。あの子に協力している姿を見て、優しいと思った。だの、立て板に水とでもいうように滔々と喋っていた。そして、彼女になって欲しいと。
聞いているうちに少し冷静に考えられるようになって、最後の言葉の意味に気付いた。そして、どうしても顔を顰めるのを止められなかった。
「あなた、もしかしてあの子があなたを好きって、知っていたの?」
「そうだけど?」
だからどうした、とでも言わんばかりの惚けた顔に、泥団子でもぶつけてやりたい気分になった。
「あのね?うちね、○○が好きなの…」
自分のことを『うち』と呼ぶのが流行っていた時で、名前で自分を呼んでいた彼女もその頃、他の子のようにそうしていた。
もじもじと指を動かしながらいう彼女はとても微笑ましくて思わず口が緩んでしまいそうになったけれど、それはさすがに失礼だよね、と我慢した。
彼女のいう○○くんとは、クラスでも中心にいるムードメーカー的存在で、人に疎い私でも知っている人物だった。
もちろん私は快く協力を申し出た。
とはいえ経験もない私が力になれるかどうか分からないから不安だったけれど、そう伝えると、その子は陽が射したような明るい笑顔で喜んでありがとうと言ってくれたので、ほっとして私は笑った。
彼女はすでに相手と名前で呼び合うほどの仲だから、経験のない浅はかな見識の私でも、きっと彼女の希望を叶えるのに大した時間はかからないと思っていた。
彼女は多い人脈(友達が多い)を使って、他の子にも協力をお願いしているようだったのも、そう思った理由の一つ。よほど本気らしいと少し驚いたけれど、その子たちの協力で○○くんの側に連れていかれた時なんて、相手が気付かないなんて事があるのかな?というくらい顔を赤くしていた。
それでも健気に笑って○○くんの気を引こうと身振り手振り頑張っている彼女は本当に可愛くて、自分もできるかぎり応援したいなと、本当に思った。
「好きです」
今日はあの子が○○くんについに告白するんだと、とても緊張した様子で朝、○○くんの下駄箱に手紙を入れているのを真横で見ていた。
放課後、階段脇の人気のない場所でするといっていて、付き添うかと聞いたら、大丈夫、頑張ると言って大好きな笑顔を見せてくれた。
心配だけれど、きっと彼女なら上手くいく、私がいては野暮だわと思って、月並みな言葉で応援して、手を振って別れた。
それから下駄箱で靴を履き替えて前を見ると、そこに○○くんが立っていた。
どうして…?あの子のところに行ったんじゃないの?
もしかして手紙では場所が分かりずらかったから、親友の私に聞きに来たのかしら、とそんな事を暢気に思っていた私は、口を開こうとしたまま結局何も口に出せなかった。
目の前の彼は見るからに緊張している。
目と肩は強ばって、周りの子より少し大きい背で私を数センチ上から見下ろしていた。今のセリフは、彼の口から出たものだった。
私は何も言えなくて、下に目を下ろすと、彼の手にはあの子が送った手紙が握られているのが見える。
その時、もしかして勘違いしてしまったのかしら?と思った。
便箋の裏に名前があるけれど、私がピンク色を好まないことが周知の事実であっても、きっとそうなのかもしれないわ、と思った。
「あのね、それ、私じゃないの。あの子はあっちに…」
「知ってる。でも、おれも今日、言おうと思ってたんだ」
二の句が継げない私が何も言えずにいると、彼の方はスラスラ続けた。
曰く、初めて見た時から好きだった。可愛いと思ってた。あの子に協力している姿を見て、優しいと思った。だの、立て板に水とでもいうように滔々と喋っていた。そして、彼女になって欲しいと。
聞いているうちに少し冷静に考えられるようになって、最後の言葉の意味に気付いた。そして、どうしても顔を顰めるのを止められなかった。
「あなた、もしかしてあの子があなたを好きって、知っていたの?」
「そうだけど?」
だからどうした、とでも言わんばかりの惚けた顔に、泥団子でもぶつけてやりたい気分になった。