ひと夏の救い
「分かっているくせに、知っていたのにどうしてこんな顔ができるの?…さっきの言葉の返事は、ごめんなさい。あなたもあの子を好きだとばかり思っていたから、そういう風に考えたことは無いの」
あの子の好意を無視するようなことを言う目の前の彼に、頭に血が上ったまままくし立てそうになってしまうけれど、それで彼の言葉を無視したら私も同じだ、と思って正直な気持ちを言った。
同じ思いを返せないことが少し申し訳ないと思いながら伝えたけれど、そんな気持ちも彼の一言で一瞬で消え去った。
「俺はあいつ好きじゃない。いつも明に頼ってばっかりで迷惑かけてるし、なんか最近よく一緒にいたけど、結構めんどくさいんだよな。
だからさ、明も一緒にいるのやめといた方がいいよ。
あ、そうだ。お試しならどう?一週間でいいからさ!それで俺の事知ってくれよ」
反射的に平手打ちしそうになる右手をぐっと力を入れて堪えることで我慢した。
頼ってばかりで迷惑?勝手に決めないで。
私は頼られてうれしいし、迷惑だなんて思ったことも無い。
確かにちょっと人に頼りがちではあるけれど、あの子なりに必死に頑張っているだけなのに、めんどくさいだなんて言葉で済ませないでよ。
なにより…!
「一緒にいるかいないかは、私が決めるわ。あなたには関係ないでしょう」
戦慄く唇を上下に動かしてどうにか言う。
目の前に立つ彼は後半を無視した私に少し不満げにムッとした顔を返した。
「でも、俺は明が好きなんだ。明があんなめんどうさいのと一緒にいるのが心配だから言ってるんだよ」
「心配なんていらないわ。私はめんどくさいなんて思ったことないし、第一、馴れ馴れしく呼び捨てにしないでよ!」
「なんだよ、そんなに怒ることないだろ。あいつとは下の名前で呼びあってるんだから良いじゃんか」
「良くないわ。本人が嫌って言ってるんだからやめて」
「じゃあさ、お試し期間だけっていうのは?それなら良いだろ」
「するって言ってないでしょ!勝手なこと言わないで、大体あの子を待たせてるでしょう。こんな話するより早く行ってあげてよ」
「分かった!あいつが俺の事好きだから遠慮してるんだ。じゃあ今から振ってくるから、そしたら付き合ってくれるよな」
「だから____!」
あんまりにもあの子を袖にする態度にこちらもヒートアップしていると、急に話していた彼の顔が何かに気付いて驚いた顔をするから、次ぐ言葉を呑み込んで後ろを振り返る。
すると、そこには今まさに話に出ていたあの子が私の方を涙を溜めた目で今にも泣き出しそうな顔をしながら見ていた。