ひと夏の救い

「あ、」
「なんで?うちの事応援してくれるって言ってたのに…」

話題の彼女が最悪のタイミングで現れてしまった。
どこから聞かれてたの?彼が貴方のことを酷く言っていたことを聞いてしまって傷ついてしまっていない?
そんな風な心配が波のように巡って口に出来ないでいると、彼女は遂に涙を零しながらも強い口調で言った。

「大っ嫌い!横取りしないでよ!!」
「っ、待って!」

彼女はそう言ったきり脇目も振らず走り去ってしまった。
追いかけたかったけれど私はとんでもなく足が遅い。
校門まで行った時にはもう見失ってしまっていた。あの子の家も分からない。弁解する手段が思いつかず、結局その日はそのまま帰ってしまった。

そしてその翌日からだった。

最初は気づかなかった。
元から周囲と親しくしていたのはあの子が間にたってくれていたからであって、私自身が社会性に富んでいるわけでもない。
あの子といない私に声をかける気もないんだろうと、私からもその気がなかった為に、まさか教室中から無視されているだなんて気づいてなかった。

あの子が登校して、目が合って、けれど挨拶もせず逸らされて他の子の元へかけて行った時、言いようも無い悲しさが胸を覆った。

彼女と話すことは叶った。ただ、仲直りできたわけではない。
廊下ですれ違う時、一瞬立ち止まって「裏切り者」と囁かれた。
それから、いわゆるイジメというものに発展していって、友達が皆無の私には味方してくれる子なんているはずも無く、あの子がお気に入りの教師に至っては知りえないとでも言うような顔で相も変わらずつまらない授業をし続けていた。

ある日、教室に置いてあった花の花瓶をあの子が割ってしまったことがあった。
その時たまたま近くに立っていて、落ちた花瓶はあの子と私の丁度間の距離に落ちていた。そして青ざめたあの子は言った。

「明ちゃんが落とした」


それがどうして皮切りになったのか、『あの子が』いじめられるようになった。



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