ひと夏の救い

らしい。

と言うのも、そのいじめが発覚して先生が彼女と周りの生徒に話を聞いたところ、それがきっときっかけであの子をいじめるようになったんだと思う、との事で。

もちろん私には身に覚えが無い事ばかりだった。
けれど、その間も誰一人として話す人なんていなかった私は先生に呼び出されその話をされるまで知ることすらなかった。

なんでも私が無視するようになっただとか、酷い言葉を浴びせてくるのだとか、消しゴムを取られただとか、挙げ句の果てには友達は助けてくれたのに突き飛ばしただとか、ハサミを向けられただとかという話が上がったのでいよいよ看過できないと思ったらしい。

一つ一つ聞かれること、何も思い当たる節はない。
むしろほとんど『あの子が私に』した事だという認識だった。

おかしいと気づいてもどうしようもない。
私はただの小学生の女の子で、話を平等に聞くはずの先生はこちらの立場を考える素振りもない。
あの子に言われたままに私に不審気な目を向けて尋問するように質問するだけ。

両親は先生に呼び出されたという事実に大層頭に血が登ったようだった。
昔の自分は怒られたり、ましてや呼び出された事なんて一度もないのにと、あなたが悪いことをしたんでしょう。なら謝って許してもらいなさいと。
そんな風に一方的に話を始めて、終わらされた。

私の言い分なんてこれっぽっちも気にしていなんだとわかった。
ただこの事が穏便に済むように、聞いたまま受け入れて私が反省したという格好をさせたいのだと思った。

思ったところで、あの子にも先生にも両親にも何も言い返すことが出来ない弱い自分に出来るのは、部屋に閉じ込めるお仕置をされてさめざめと許しを乞うだけだった。

その日、私はピアノをやめた。



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