ひと夏の救い
「どういうことだ」
荒峰明が消えた。
その事実を十分に咀嚼し呑み込んだ頃には、既に自分の顔が真っ青に青ざめている事を簡単に想像できた。
ほづみん。いや、穂積が冷静に状況を問う中、澄晴の頭は明の事だけでみっちりと埋まっていた。
お手洗いに行くと言って消えた彼女。今思い返してみたらその時、嫌味も文句も意見も真っ直ぐに相手の目を見て言う明の瞳は珍しく明後日の方向を向いていなかったか。
彼女が行ってから十数分が過ぎている。とは言え、ここからそう遠い場所まで行けるほどの時間ではない。まして、運動音痴のきらいがある彼女がそんな短時間で消えおおせるとは考えづらい。
彼女は素直に認めないだろうが、そんな所でさえ魅力であると思うのは、流石に欲目が過ぎているだろうか。
だって、あの子は可愛いんだ。俺にとって世界一可愛い女の子。大事な大事な、特別な人。
あの子がいたから世界が輝いていた。あの子に会うために、自分の性格すら変えようと思えた。
根元は変わらなかったけれど、彼女の反応が良かった気はしないけれど、この軽薄なほどに軽い足取りのおかげで彼女との関わりを持つことができたと思えば、悪いことでもなかったと思う。
何よりもうこれは癖のようなものになってしまったから、今更変えるとなると面倒だ。
まあ、彼女が望むのなら話しは別だけれど。
『ガキ大将に突き飛ばされた』俺を庇ってくれた彼女。
『ピアノ教室』で共に競い合ったあの子。
『一緒にピアノを弾いた』可愛く笑う女の子。
あの子の笑顔を、あの時の屈託のない世界を輝かせてくれる笑顔をもう一度見ることが出来たなら。そしてそんな彼女を自分が守れたなら。
あの時突然別れてしまったあの子と偶然隣り合わせになったあの日から。
どんな方法を使っても探し出すと決めていたあの子が何に引き寄せられてか俺の目の前に再び現れたあの日から。
やっぱり俺は、君を守りたいと思った。
勝手に君に誓ったんだ。
それを言ったら君は怒るかな。気味悪がるかな。
それとも、照れたりしてくれるのかな。
何も無ければいい。もし何か困っているなら俺が助けたい。けれど、
いったい
「どこに行っちゃったの…アキちゃん」