ひと夏の救い
パラパラと数人、少なくとも2人以上の人間の足音が聞こえる。

もしかして、澄晴達が来てしまったんじゃ…?
だめ、この男は異常に粘着質で悪質なストーカーよ。
嫌がる人の腕を力任せに掴む様な危険人物なのだから、もし下手に刺激して暴力を振るったらどうするの!
それが私ならまだしも、あの4人に向かったとしたら…

サアっと顔から血の気がひいたのが分かった。
想像しただけで恐ろしくて怖くてたまらない。

お願い…!何も気づかず去って…!!

ぎゅっと目を瞑って祈った。
私は自分で何とかするから、あなた達を巻き込むなんて絶対にしたくないから。だから早く行って!

するとふと声が聞こえた。ドア越しなので聞き取りずらいけれど、木下君の声がしたからやっぱりあの4人なのだと分かって、一層緊張感があがった。

頭上から相変わらず暑苦しそうな呼吸音に加えて歯ぎしりの音がした。
この男も彼らを知っている風だったし、それどころかとても憎んでいるようですらあったから、いつ飛び出して彼らに危害を加えないかと私は気が気でなく心臓が止まる気持ちになった。

「…た」
「なか………か…?」
「………」
「…け……」

がた、と扉に誰かが手をかけた音がした。男に背後から抱きすくまれ、拘束されているこのおかしな状況を見られるかも知れないということにだんだんと変に嫌悪感、羞恥心までが心に浮かんだ。

とにかくやめて、お願いだから…!そんな風に願いながら、聞こえない会話に耳を澄ませた。


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