ひと夏の救い

音が止んだことで油断していた男が何かを話そうとする気配を感じながら、力いっぱい下に向かって体重をかけすり抜けを試みる。

…!上手くいった。次は…

感動する間もなく今度は横に駆け出してドアに向かった。首の後ろあたりを手が掠ったような空気の動きを感じてヒヤッとしながらもひたすらにドアへ走る。

前のめりになり過ぎて転けないように気をつけながらドアを見ると、見間違えでなければ鍵が掛かっていなかった。

あれ…?と思う暇も与えられない。何故なら後ろから怒鳴る声がするから。なのでそれを目に停めた瞬間一直線にドアに手をかけ左に引く。すんなり開いた。

よく分からないけど、早く逃げなきゃ!

廊下に出た瞬間ドアを勢いよく閉めると、バンだとかドンだとかっていうとにかく重くて痛そうな音がしたので、きっと男が頭をぶつけるか身体をドアに追突させたんだろう。

チャンスだ。裸足のまま私は暗い暗い廊下の中を、ただ前へ、どこか違う場所へと願いながら駆け出した。





< 131 / 145 >

この作品をシェア

pagetop