ひと夏の救い
2、3歩走る間に顔を上げて前を見た。来る時真っ暗だった通路は今も勿論真っ暗なままで、人が通る道ではないと拒絶されているように感じて思わず唾を飲んだ。
けれど直ぐに頭を切りかえて走る道筋を考える。
真っ直ぐ行くとある突き当たりを右か左に、もしくは目の前にある階段を…いや、タダでさえ体力がないのに階段なんて登ったら徒に体力を消耗して走れなくなるだけ、即座に追いつかれる。だからといって平面が早いわけでは無いけれど…とにかく早く角を曲がれば一時しのぎ程度には目をくらませられる。
体力面だけで言えばマシな方ね。
幸い痛みに悶えてでもいるのかまだ扉が引かれた音はしない。今のうちに出来るだけ体力切れを防ぎつつ、距離をかせぐ!
考えながら走る途中で階段を通り過ぎた。
次は左右どちらに曲がるか。
澄晴たちが帰るか、場所は決めずとも取り敢えず進むとすれば右に行っているはず。なぜならさっき私が止めなければそのまま進んでいた方向だから、わざわざ反対に進路を変える必要は無いでしょう。
となれば…左。
呼吸する間隔が少しずつ狭まってきた。苛立ってしまいそうだけれど、無駄な消費をしないために冷静になるよう頭で命令を出した。
これが無事に終わったら、絶対にランニングを始めるわ…!
ガラッ、バン!!
勢いよく扉が打ち付けられた音が聞こえた。今私がいるのは丁度突き当たり。
見られないで…!!
後ろを振り返る余裕なんてあるわけないから分からないけれど、タイミングによっては曲がる方向がバレて時間稼ぎの要素が1つ減るということ。足が遅く体力もない私にとっては致命的にも成りうる。
「は…!…はぁ…」
心臓がうるさくなっているのは恐怖か運動によるものか。
震える腕をもう片方で不器用に押さえながら、左へ曲がった。