ひと夏の救い
曲がる時に少しでも早く身体を壁の角で隠せるように前傾姿勢で踏み込んだので危うく転びかけた。着地が下手くそだから体重をかけた片足に思ったよりも負担がかかってしまって足首をぐにゃりと捻ってしまったけれど、痛みも感じない。
そんな事より違うことを考えるので頭が忙しいから。
「ふ…っ…ぅ…」
息切れの声がうるさい。後ろを振り向けないから耳で確かめないといけないのに聞こえやしない。
この先の事を考えないと。この廊下を真っ直ぐ行くと、えっと、何だっけ…落ち着いて、私。大丈夫でしょ。考えなさい。
「はぁ…はあ…」
ああもう!
走りながら考えるだなんて高等技術出来るわけ無いじゃない!走るだけで精一杯よ!
でも、前を見ないと危ないから、顔をあげないと…
あ…れ………うそ
行き、止まり………?
その瞬間、私の中で堰き止めていた何かが隙間から流れ出した。