ひと夏の救い

バクバク鳴る心臓と引き攣った自分の呼吸音が耳につく。

目の前に立ち塞がる大きな男が、立ち上がれずに恐怖でずり下がる私に何か言いながら手を伸ばす。それは立ち上がるのを助けるために伸ばすというより、振り上げた手のひらを私の顔に向かって振り下ろしている手で。

こんな気持ち悪い悪意に晒されたことは無かった。
大人に力づくで支配される恐怖も知らなかった。
死んでしまいそうなくらい走ったのも初めてだ。
そもそも、夜の学校に忍び込むなんてことも初めて。


初めてばっかり。確実に人生最悪の日。
あの変な四人がいなかったら…澄晴に誘われてついてこなければこんな事にはならなかったのに。

こんな問題が学校に知られたらもっと人は寄り付かなくなるだろうし、大人には白い目で見られるだろうし、面倒事にしたくなかったら流石にあの四人も大人しくなって私に近づかなくなるでしょうし…お母さんには久しぶりにお仕置されるかもしれない。上手くやってきたのに、台無しだわ。


でも、

ちょっとだけ、楽しかった。かも



ギュッと目を瞑って次にくるだろう衝撃を待った。

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