ひと夏の救い
全てを聞き終わったあと、鬼婆は鋭い目で私達を見ながら軽率な遊びが今回の様に大きな事態になる事は少ないが、それ以外にも学校のルールを破って行う事の危険性、周りへの迷惑、簡単で当たり前だけれど大事な事、それを滔々と話して叱った後、不審者の件について前々から職員内でも話があった事、それが解決したのは良かったけれどそれは結果論であって等と段々と般若の顔になりながら言い、それでも最後には怪我は宜しくないが無事でよかった、と少し微笑んでまで見せた。…怪奇現象だわ。
「それとね、荒峰さん。学校にお電話があったので、さっきご連絡したけど…」
「明!!!」
保健室の扉が勢いよく開き、目の下に隈を作ったスーツの女性が姿を見せた。
その姿に目を見開く。
「おか、さん」
「怪我は…ああ!怪我してるの!?先生これは一体っ」
「お母さん、落ち着いてください。実は…」
鬼婆がお母さんに説明しているのをどこか遠くで聴きながら、目は母に固定したまま動かせなかった。
なんでお母さんがここに…?鬼婆と話したということは学校に侵入した事もろもろがバレているのかしら。別にしらを切る気は無かったけれど、こうなったらお仕置どころでは済まないのかもしれない。それ以上というと、勘当、とか?分からないけれど、仕方ないわよね。
今までのお仕置を思い出して沈みそうになる思考を何とか現世に戻そうと深呼吸して前を向くと、ちょうど話し終わったらしいお母さんと目が合った。
緊張で逸らしたくなったけれど、耐えて見返すと、段々とその目が潤んでいって信じられない気持ちになった。
「ごめんね明、もっと早く帰れていれば気付けたのに…」
ごめんね、痛いでしょうと続く言葉と抱き寄せられた腕に目を疑うと同時に、怖かった事辛かったことを思い出して、信じられない気持ちのまま、涙を見せたことのないこの人の涙に動揺してつられてしまう。
そうなってしまえば鬼婆の前だからと気張っていたのも虚しく、後から後から流れだして、久しぶりに抱きしめられた腕に安心して外聞もなく泣きじゃくってしまった。