ひと夏の救い
澄晴に手を貸してもらいながら教室に入って、近い席なのでそのままあの後の話を聞いた。
澄晴と一緒に私を助けに来てくれたのは木下君だったらしい。
得意のサッカーで鍛えた脚力で男に立ち向かったのものの、大人の力は強くて危ない所だったのをあの鬼婆が助けたんだって!実は鬼婆は柔道黒帯だっただなんて初耳だわ。
自分より大きな男を一本背負いしただなんて…凄い人だったのね。
私が帰った後に木下君達が保健室に合流して、澄晴なんて二回分お説教を聞かされたってうんざりした顔で言ってた。
今思うと、多分最後の七不思議って鬼婆だったのかも。
鬼婆は下校時間の後に勝手に居残ったり隠れて遊んでいる生徒を目ざとく見つけては捕まえていたみたいで、ちょっと悪い生徒達の間でスグに見つけられるし般若みたいに怒る鬼婆は有名だった。
それが七不思議のおばけレベルで恐ろしい存在として噂が広まったのね。
その後鬼婆…助けて貰ったし流石に失礼よね。
先生が男を警察に突き出してその件は解決した。
男は無職のニートで、母親と二人暮しで養って貰っていたけれど母親を虐待していたり、私だけじゃなく前にも女の子がストーキング被害にあっていたみたいで、本当にとんでもない人だった。
一区切り着いたところで机から教科書を出していると、教室の中から悲鳴やどよめきの声が上がった。
え?どうしたのかしら?
「「あ」」
澄晴と声がハモる。
顔を上げた先にある黒板にいつの間にか書かれたものに驚いたから。
帰る時、疲れて眠くて夢かどうか曖昧だった。校舎の影が揺れていた。…まるでサヨウナラと手を振るように。
「…言ってなかったけど」
黒板に向けた顔をそのままに澄晴が話す。
「アッキーが危ないって知らせてくれたんだ」
「…誰が?」
「多分、あの子」
ほとんどの人は何も見えなかったようでどよめいた人を不思議そうに見て、見えた人は何も無かったようにすぐに消えたそれに見間違いかと目を瞬いた。
でも、私たちは分かる。七不思議にもいないのに、でも、いた。
アナタは
ダレ?
『まタあソぼウネ』