ひと夏の救い
3章:空き教室の金切り声
手こずりながら門を越えて、
最近建付けが悪いと言われていた校舎の窓を、
いつもの眠気で半目なぽやぽやした雰囲気が
どこに置いて行ったの?ってくらいに
謎の才能を発揮した奈良坂君が手早く開けて、
学校の侵入は難なく成功していた。
えっ、えぇ…?って驚いたのは私だけで、
澄晴や木下君や東雲君は全く気にした様子もなく
普通に校舎に入って行っていた。
この人達…何者??
疑問符が出て止まなかったけど、
皆が気にし無さすぎて私が可笑しい気がしてきて、
じーっと見てはみたけど、
結局なんにも言わないで後に続いた。
「結構静かだな!」
「静かにしろって!
人の気配はしないけど、
もしかしたら先生が残ってるかもしれない」
わ、分かった!とまた大きな声で木下君が返事をする。
そして、また東雲君に拳骨された。
「で、ここから近い七不思議スポットってどこ?澄晴」
「え。えーと、空き教室。かなぁ。」
意外に長い質問を奈良坂君がして、
澄晴が何故かどもりながら返した。
「空き教室ってどっち…」
「なあ!これも七不思議か!?」
パチパチ瞬きしながら奈良坂君が左右を見た時、
木下君が全く学習しない大声で私達を振り返った。
「だから誠!静かに…」
「分かってるよ穂積。
じゃなくて、これ、見てくれよっ」
東雲君が窘めようとしたけど、
木下君はやっと小声になって壁に懐中電灯を向けた。
「なに、これ…」
気付かなかったのが不思議なくらい、
血の様に真っ赤な一本の矢印が、壁一面に書かれていた。