ひと夏の救い
さっきよりも耳を押し付けたおかげで、
もう少し鮮明に空き教室の声が聞こえてくる。
「てかさー聞いてよ!
うち澄晴に告ったんだけどさぁ」
「え!マジ!?」
「きゃー!遂に学校の『王子』が相手を決めちゃうのね!」
「やばーい!」
「ちげーよ!
あのスカした男、うちを振ったんだってば!」
「「「えっ…」」」
「ちょっとかっこいいからって調子に乗っちゃってさ!
『俺、好きな子いるから…』とか言ってたけど、
絶対嘘!だってうちを振るとかありあえないし!」
「えー何それ!一途アピール?
学校一可愛いマミ振るほどの女とかいないっしょ!」
「ホントだよね!
何様?って感じ!」
「…そういえば、
あたしも『王子』の岬に告白したんだよね」
「「「「えっ!?」」」」
「…でも、返事すら貰えなかった」
「はああ!??何それ!!」
「有り得ない!」
「酷すぎっ!」
「お高くとまっちゃって!!
もう許せない!
うちらで『制裁』してやろうよっ!」
「相手は男子だけど、
私達が直接手を出す必要無いし!」
「やっちゃおう!
王子に憧れてる女子もこの事教えてさ」
「教科書とか…こうしてやる!」
ドンッ!バササッ
何かが強く壁に当たって落ちる音がした。
物を投げたのかもしれない。
「漫画みたいにさ、
机の中にカミソリとか入れたら面白そ…」
バンッ!!!
今度は誰かが、
ドアを思い切り開けた大きな音。
空き教室の声の主たちの耳障りな声は止んだ。
ただ聞いているだけだったのに、
堪忍袋の緒が切れて、
そのドアを開けた犯人は_____
「貴方達、馬鹿じゃないの?」
そう、私。