ひと夏の救い

いきなり、何の前兆もなく、
あと数センチズレていたら
確実に当たるくらい近い私の真横を、

ヒュン!!

何かが通り抜けた。

な…に……?

ドカッ!!!

悲鳴を上げなかったことが驚きなくらい、
大きな音が私の耳をつんざく。

「ふー、ふぅーっ!!」

目を丸くして、
バクバク動き回る心臓を押さえて目の前を見ると、
言葉も発さず、
暗くてはっきりとは分からないけれど、
大きな物を投げた恰好で
歯を剥き出しにして目が血走っている、
まるで獣のような、
確かマミとか呼ばれていた女子が
私を睨み付けてた。


あ…


それを見て、
思い出したくない記憶が
一気に
パッ、

脳裏に蘇ってくる。


…い、や。こわ、い……


何も言い返せないのね、
とか
物を投げるしか能がないのかしら、
とか
嫌味が分かるくらいの能はあるのね、
とか
そんな皮肉も
全然出てこない。


「…ゃめ、ご、め」


勝手に、
呼吸が苦しくなる。


謝らなきゃ、
早く、はやく、許してもらわないと。


「ぅぅううるさいっっっ!!」


また、何かを掴んだ目の前の人が、怖い。


反射の様に大きな声にビクッと震えてしまう。


目の前の人が
掴んだ何かを振りかざす。


私はガチガチ鳴り始めた歯を止める事も出来ない。


『また』
私が悪い事をしたんだ。


『だから』
何されてもしょうがない。


『許してもらうまで謝らないと』



震える口をなんとか開きかけた。
その時、




グイッ_________!!!!!




熱い何かが私の腕を引っ張った。
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