ひと夏の救い
私の中で『お子様』認定している、
でも今はいつもみたいに
目をキラキラさせた少年の顔じゃない木下君が、
私の視線に気づいたのか、
見下ろしてきた。

「荒峰、だいじょうぶか?」

心配そうな目で私を見つけてくる木下君。

「…大丈夫よ。少し驚いただけだわ」

その視線がなんとなく気まずくって
目を逸らしながら答えた。

「ありがとう、荒峰」

「え…?」

いきなりお礼を言われた。

「俺達、学校で女子から『王子』とか呼ばれてて、
よく話しかけられたりしてて。
俺の部活の時にも、
声援送ってくれるのは嬉しいけど
俺にしか言わないから
他の仲間の士気が下がったりして
ちょっと迷惑だったんだよな。

そのこと説明してやめてくれっていったら、
『応援してるだけなんだからいいじゃん』
ってやめてくれなくて。
女子だから手出す訳にもいかないだろ?
それは俺の問題だから、
我慢して言い続けてたらやめてくれないかな
って思ってたけど。

でも、さっき空き教室にいた女子達は
澄晴に付きまとってたり
岬が名前も知らないようなやつらだった。

告白して振られた腹いせに『制裁』とか
穂積たちが危ない目に会うんだったら
黙っておけない。

荒峰が行かなかったら俺が出ていってた。
俺さっきは血上ってたし馬鹿だから
手を上げちゃったりしたかもしれない。

だから、俺の代わりに言い返してくれて
ありがとうなっ」

木下君は最後にはにっこり微笑って、
でも真剣さを帯びた目で私を見つめた。

あ、でも物投げられたりして
怖い思いさせたのはごめんなっ、と
焦った顔になった木下君は付け加えた。

お礼を言われた理由が分かったけれど、
やっぱりなんだか気恥ずかしくて
もっと目を逸らしながらも、
小さく、頷いてあげた。

その後、頭上から快活な吹き出し笑いが聞こえたけど、
きっと気の所為!

< 40 / 145 >

この作品をシェア

pagetop