ひと夏の救い
それにまた苛つくままに噛み付こうと思ったら、
いつの間にか校長先生の話が終わってて、
皆が一斉に礼しているところだった。

慌てて私も同じ動きをする。
で、やっぱり隣の男子は笑う。もう、失礼なやつ!

でも、怒ってるのが面倒臭くなって疲れたからすぐ怒りが収まっちゃった。

もういい、虫は無視!なーんてね。はぁ…

それから閉会の言葉までずっと黙ってたら相手も静かだったんだけれど、
何故か退場して教室に戻るまでの間にまた話しかけられた。

「ねぇ、君なんて言うの?」
「何が?」

名前の事を聞いてるっていうのは何となくわかったけれど、
でも素直に教えてやる気になれなくって素っ気なく返した。

そしたら一瞬茶髪パーマが驚いた顔して、
すぐクスクスお腹抱えて笑いだした。

本当に変な人に絡まれちゃった。
なんでそんなに笑い浅いわけ?面倒臭い…はぁ

茶髪パーマは深呼吸して息を整えて、
笑みを湛えた顔で私に手を差し出してきた。

「ごめんごめん。
人に聞く前に自分から、だよね。
俺の名前は新井澄晴(あらいすばる)。
澄晴ってよんで!」

意味不明。いきなり名前呼びを強要された。
別にいいけど…うるさいから早く教室つかないかなぁ…

「わかったわ」

何か待っている様子の澄晴。
私は自己紹介するなんて言ってないから気のせいよね。
まあ、聞かれたら答えるけど。
え?ひねくれてる?
ふん、別にいいのよ。仲良くする気なんて無いんだから。

痺れを切らしたのかさっきとは違って、
ちょっと不機嫌な顔でこちらを睨んでくる澄晴。

「ねぇ、君の名前は教えてくれないの?」
「荒峰明」

聞かれちゃったから、端的に教えてあげた。
すると、一瞬不可解そうな顔をしながらも、
差し出したままの手をずいっと寄せてきた。

「じゃあ、あらみねんか、
あきあきか、らんらんどれで呼ばれたい?」
「どれも嫌」

壊滅的なネーミングセンスに怒りを通り越して呆れるわ。
キラキラした目で見てくるけど、
即行で全部嫌だって否定してやった。

そしたら、一瞬口を尖らせていたけど、
またニコッと笑みを浮かべて私に手を差し出し直した。

「じゃあ、アッキーでどう?」
「まあ…それなら。」

あんまりキッパリ切り捨てるのもなんだか良心が痛む気がして、
さっきよりもマシかなって思ったから放っておいた手に私の手を重ねてあげた。

そしたら、さっきまでの子供みたいな笑顔が嘘みたいに、
ニヤって…ニヤって性格悪そ〜な顔で笑った!

「これからよろしくね!アッキー!」

かと一瞬思ったら、直ぐに無邪気な顔に戻ってブンブン手を上下させた。

こわ…っ!
ていうか、普通に苗字呼びにさせれば良かったんじゃ…
私、もしかして嵌められた…?

手を取ってあげようなんて
らしくない親切心を発揮したからこんなことに
なったのかしら…はぁ。

茶髪パーマ…もとい澄晴は、
機嫌良さそうに教室に着くまで私に他愛ない話をし続けた。


< 5 / 145 >

この作品をシェア

pagetop