ひと夏の救い

じっと息を潜めて気配を消す。

暫くしてバタバタと騒がしい足音は
私たちが一度行った音楽室の方へ向かって
階段を過ぎ去って行った。



……


……………


……………………………………あつい


「…あっつい!早く離れてよ!」

必要以上に密着しているように感じて
少し、ほんの少しだけドキドキなんて
してしまっていたけれど、
そんな事よりみんな近すぎだわ!

すぐ後ろで私を壁と挟んで囲い込むように
座り込んでいる変人四人に
階段に響かない程度の音量で叫ぶ。

そう、今の私達は暑くて叫びたくなるくらいに
密着して座り込んでいる。

行き止まりの屋上まで逃げるか、
行き止まりではないけれど
遠くて間に合うかわからない場所まで走って逃げるか。

この二択のうち、私達は屋上を選んだ。

屋上へ続く扉は当然鍵がかかっていたけれど、
扉の目の前にはちょっとした踊り場があって、
わざわざ登って覗き込まないと
階下からは見えなくなっている場所だったの。

だから、瞬時にその踊り場まで駆け上がって
皆で固まって息を潜めていたんだけれど、
何故か示し合わせたように四人は私を中心に
して固まったのよね。

「あ。わ、悪い」といって
東雲君が一番早く離れてくれた。

といっても東雲君は四人の中では
一番遠い場所にいたから、
正直あんまり何も暑さは変わらない。

いきなり起きたハプニング?に
ワクワクというかキラキラしたというかといった目を
更に輝かせた木下君が、
その興奮を誰かに話したいと言った様子で、
いつも話を聞いてくれる東雲君を
「なあ穂積!今の…」と言って追い、
二番目に離れていった。

一番近くにいたのは、
右が澄晴、左が奈良坂君。

澄晴は何故か機嫌が良さそうな、
不機嫌そうな、動こうとしている素振りは見せるけれど
でも実際に動き出してはいないという、
微妙な顔と行動をしていた。

奈良坂君は今までより一段と眠そうに
目を細めていて、
今にも寝息が聞こえてきそう…

って

「ちょっ、ちょっと奈良坂君っ。
なんでこのまま寝てしまおうみたいな
顔をしているのっ?
は、早くどいてよ!あついんだからっ」

暑いのもそうだけれど、
何となく奈良坂君が座った体勢から
私の方に倒れてきそうな予感がして
焦ってそう言った。

本当にユラユラと揺れ出して、
ただでさえ今は体も顔も近いのに
このまま私に倒れこまれでもしたら、
違う意味で焦ってしまうわ!


ふらっ…


男の人にこんなに近づいたことないのに!


ぎゅっっと目を瞑って倒れてくる
衝撃を待っていたけれど、
少し経っても重い感触は訪れ無くて、
ただ


背中が、あつい
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