ひと夏の救い
ドサッ
「いた」
抑揚のない、
痛みを訴える声。
音と声から、
多分私が避けた(というか引っ張られた)せいで
受け止められるものが無くなった奈良坂君が、
代わりに硬い床に倒れ込んだのが分かる。
「自業自得だよ。
どさくさに紛れてアッキーに近寄らないで」
「…ちっ」
「ちょっ、舌打ちした!?
やっぱりわざと倒れ込んだでしょ!」
「違う、眠かったから。
…ついでに荒峰さんが
どんな面白い反応してくれるかなって」
「やっぱわざとじゃん!」
頭上でわーわーと言い合いが続く。
それは好きにしてっていうか、
うるさいと思うんだけれど…それより澄晴!
ぐいっと肩を引っ張られたと思ったら
いつの間にか、こんな…っ!
後ろから、だ、だだ、
だき、しめられているような
こんなおかしなっ格好を!
今すぐ解いて欲しいわ!!
…暑いからっ
「あ、あの」
「だいたいなんでミサミサは
アッキーにちょっかいかけるのさっ。
前まで、なんか変な人だよねとか言ってたくせに!」
「え…」
「だって面白くなかったんだもん」
「じゃあっ今は?」
「結構面白いかもなって」
「なんで!??」
「さっき荒峰さんが…むぐ」
「わあ!ちょ…ちょっとストップ!やめなさい!
無かったことにした意味が無くなるじゃない!」
澄晴にどう離してもらうか
頭の中でぐるぐるしていたけれど、
聞き捨てならない言葉が聞こえてきたものだから、
思わず弾かれたように起き上がって
奈良坂君の口を手でふさいでしまったわ!
心臓がバクバク言ってる。
顔も熱い気がする。
さっきの醜態は絶対に知られたくない!