ひと夏の救い

揃って足音を極力立てないように
屋上前の踊り場から元の音楽室の階まで
降りていく。
と、突然

ジャァァアアン!!
ジャン、ボロン、ジャン!

耳を劈くような大きな音が
脳を揺さぶった。

思わず身体が大きく跳ねてしまったけれど、
辛うじて噛み締めた唇からは
情けない声が出ることを避ける事が出来た。

それより…
し、心臓が、止まるかとっ…

バクバク打ち続ける心臓辺りの胸を
必死に抑える。

驚いた。びっくりした。吃驚した!
え、え、え。
なんなの、何が起きたの。

自分では冷静な判断が
出来る人間だと思っていたけれど、
思ったよりも
不測の事態に弱いらしい私の頭は、
眼をぐるぐる回してしまいそうなくらい
混乱してた。

でもそんな私を置き去りにして
私を驚かせた酷く耳が痛くなる大きな音は
立て続けに音を打ち鳴らす。

ジャンジャンジャーン!
ガタンッ!!

ほんのり楽器を弾いているのかと
思ったのだけれど、
明らかにおかしいわよね。

横を見遣れば、
耳を塞いでうげぇとでも言いたそうに
苦い顔をした澄晴と、
大きな音で眼が冴えてしまったのか、
常に見ないくらいに眼を開いて
パチパチ瞬かせる奈良坂君がいた。

木下君なんかは驚きを隠すことも出来ずに
大きな声でうわっと叫んでいたけれど、
それ以上に鳴り続ける酷く汚くて酷く大きな音に
掻き消されていたようだったから大丈夫みたい。

東雲君は耳に栓をしながらも
何かを考え込んでいるようで、
私達の中では一番落ち着いた様子だった。

私の視線に気付いた東雲君が
多分大きい声を出したら良くないし、
それ以上にこの弾いているとも言えない音に
消されてしまうかもという事で
口パクで「音楽室に行こう」と言ってきた。
と思う。

私は読心術なんて心得ていないから、
口の形と今の状況から想像するしかないけれど、
きっとあってると思う。

自分の読み取りが間違っていないと信じて、
東雲君にコクリと頷いて返す。

進み出した東雲君に続いて、
走らず、でも急いで音楽室まで向かった。



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