ひと夏の救い
少年は自分の通う学校の教室、自分の席に座っていた。
その少年の周りには、見えるはずはないのにどんよりとした空気が漂っているようにみえる。
アキちゃん、会えなかったな
表情は何も感じないかのように微動だにせず、
表面上は普通に席に座っているだけの少年だったが、
心の中では昨日のピアノ教室で会えなかった少女の事で
ため息を着きたい気持ちでいっぱいだった。
だから、その様子をチラチラ見る小さな乙女達の視線には全く気づいていない。
しかし、その少女達は少年に話しかける様子はない。
ただ見ていて頬を染め、友達と一緒に密かに騒ぐだけであった。
それは何故か。
理由は二つある。
まず一つは、少年があまりにぼーっとした、
いつもどこを見ているのか分からないくらいのんびりした少年だったせいである。
少年と同じクラスになった積極的な少女達は大抵初めに話しかけた時、
噛み合わない会話と話しても自分達の名前すら覚えてくれない少年に耐えかねて、
遠くから見ているくらいがちょうどいいという結論に達する。
それだけであれば諦めない少女もいるのだろうが、
そんな子も現れないのは二つ目の理由が主な原因だった。
結論から言うと、少年はいじめにあっていた。
いわゆるガキ大将と呼ばれるような少年とその少年の仲間達、
そして密かに少年を独占したいという想いを抱いている女王様的な存在の少女と、その取り巻き達に。
ガキ大将の少年は、ぼーっとしているのにチヤホヤされている少年が気に食わないため、
体育の時間にわざと自分の周囲の子供より幾分か大きな己の体を小さな少年にぶつけたり、
授業中に少年と席の近い仲間の少年達に、
先生にバレないよう椅子や机を蹴るよう指示したりした。
女王様の方は、他に少年に好意を持つ少女達を近づけさせないようにして、
更には仲良くしようとする男子でさえも牽制して威圧的に少年から遠ざけ、
自分だけが近づいて少年を自分のものにしようと度々話しかけているが、
少年の方は未だに名前も覚えていない。
女王様な少女の方は直接危害を加えるようなものでは無いがまあ、そんな原因があり、少年は実は学校ではいつも一人だったのだ。
少年はそれでものんびりしていたし、
特に気にした様子もなかったのだが、
ある時習い事先のピアノ教室で、
『アキちゃん』に出会った。