ひと夏の救い
結局女の子達と遊んだ事で昼食もままならなかった少年は、
控えめにクウクウとなるお腹を抑えながら午後の授業を終えた。
しかし放課後になると、お腹の空き具合もさっぱり消えていた。
すると今度はいつも以上に酷使した体が疲労を訴えてきたので早く帰って寝ようと思い、
急ぐ気持ちで靴箱で靴に履き替えたところで少年の細い腕が突然何かに引っ張られバランスを崩しそうになってしまう。
「おい!ちょっと来い!」
ガキ大将の彼である。
後ろに下っ端を引き連れた彼は、
いや彼等は、何故かニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。
元々力が弱いのに、更に今はいつも以上に体力なんて欠片も残っていない少年は、
掴んできた腕を振り払うことなんて出来るはずもなく引きずられて行ってしまった。
「お前ほんとナマイキなんだよ!」
どん、と胸を思い切り押されて尻もちをつく。
何が生意気なのか、少年には理解出来ていない。
思わず首を傾げるが、それを見たガキ大将はイラついたようで、
それを察した3~4人の下っ端達が少年を囲むように立つ。
「おまえ、ももちゃんと遊んでただろ!」
「たけしくんはももちゃんが好きなんだからな!取るなよ!」
「おい、それ言っちゃだめだよ!」
「あ…ごめん、たけしくん…」
尻もちを着いた少年を取り囲んで見下ろしながら言い放った下っ端達は、何やらチラチラとガキ大将を気にしだしているが、少年の耳には何も入っていなかった。
何故なら、怖かったから。
いじめっこの彼らの事では無い。
まずこの場所は校舎の裏側で、人目に付きづらい場所だった。
勿論彼らがそういう所を選んだというだけの話だが、重要なのはそこでは無い。
人目に付かないそこは、大きな校舎の影が降りていて時間に合わず暗く湿っていた。
暗い場所にいると、思い出してしまうのだ。