ひと夏の救い
と、実はその『何か』と言うのは、飲みに出かけて泥酔し帰ってきた母親だったのだが、この時の少年は失神する程の恐怖を味わった事しか覚えていなかった。
わちゃわちゃと子分達が喚く中、好きな女の子をばらされて顔を真っ赤にして恥ずかしがったガキ大将は、その感情を持て余していた。
そろそろとゆっくりと動いて暗闇から目を逸らしたくて目を手で覆った少年は、そうするともっとあの怖かった時のような暗さになってしまうと知って慌てて外す。
「たけしくんがヒトメボレしたんだよな」
「ちがうよ!ももちゃんがたけしくんの事見てたから絶対に自分を好きなんだって思って守ってやるんだってたけしくんが言ってたよ!」
「ちがうって。それはたけしくんがももちゃんを見てたんだよ」
「え?どういうこと?」
「うるさーい!!」
ガキ大将がぽっこりと出た腹を逸らして腕を上げる。
話していた子分達は自分達にその矛先が来るのかとビクッとしたが、ガキ大将はずっとももちゃんに気を持たれている少年の方にイラついていた。
ガキ大将はその格好のままずんずんと尻もちを着いたままの少年に近寄る。
ガキ大将は少年を自分の影で覆えてしまう程に体が大きい。
少年の視界はまた暗くなった。
ずんずん近づいてくる感じも、眉を釣り上げて口を引き攣らせている変な顔も、何となくあの何かに似ていて泣きそうになっていた。
しかしその時
「あの!」
可愛らしい女の子の声が少年の頭の中に響いた。