ひと夏の救い
噂の尾ひれ
「はあ、はあ…つまり、
あんた達はこの学校の七不思議が本当かどうか
確かめようとしてここに来たってこと?」
さっきまでの騒ぎようがやっと落ち着いて、
息も絶え絶えな様子の松井さんが疲れたようにまとめた。
「そーゆーこと」
それにいつの間にか普通の目に戻った澄晴が答える。
でも澄晴はそんな話よりピアノのレッスンに戻りたいのか、
ピアノをチラチラ見ていた。
「ん?ちょっと待って。
王子四人衆が揃ってて、
そこに一人だけ女子が混じってるってことは、
えっ、もしかして…」
何度目か分からない松井さんの
驚愕の表情が今度は私に向けられる。
「あなたが『氷姫』の、あの荒峰明!?…さん」
………あら、まだ名乗ってなかったかしら。
質問した時に何のためらいもなく話し始めてくれるものだから、
もう自己紹介を終えたものと勘違いしてしまったわ。
ん?というか、また私の知らない名称が現れたわね。
ひょうき?って何かしら?
『表記』のあの荒峰明?
……それは流石におかしいわよね。
「名乗りもせずにごめんなさいね。
『あの』が何を指すか知らないけれど、私は荒峰明よ」
自分のその話し方にどこか疑問を抱きながら、
とりあえず名乗りあげた。
そういうと、
なぜかさっと顔を青くした松井さんが
「ごごご、ごめんなさいませ!??
あああの氷姫様、あ、いや、荒峰さんの王子達にちかづこうなんてぜんっぜん考えてなくって!
あ!ピアノはちょっと教えて貰ったんですけど、もうほんとうに!下心なんてこれっぽおっちも無いので!なりゆき?なので!
だから!お願いします!ヤクザに私の家を潰させないできださい!!」
突然そう言い散らかして土下座した。
なんだか目まぐるしくて忙しい人だわなんて
傍観してしまったけれど、
つっこみどころが満載過ぎて頭が混乱してしまう。
とりあえず?えーーっと…
「なんの事か、いちから、順番に、話してくれない?」
もう少し追いつけるようにして欲しくて
混乱中の私の頭を落ち着ける意図も含めて
ゆっくり諭すように『お願い』する。
ばっと頭をあげた真っ青な松井さんの顔から
魂が抜けたような気がした。