ひと夏の救い
「_____荒峰、さんは、綺麗だけど。
クールビューティーって言うか、
あんまり笑わないと言うか…」
綺麗…ね。
自分で自分の顔を自賛したいと
思ったことは無いけれど、
一応自覚しているわ。
それより、その言葉達からするにつまりは__
「愛想がないってことね」
一々びくつかないで簡潔に教えて欲しいけれど、
難しそうだから助け舟を出してあげた。
「……うん。
それもあるけど、
あとは、その…
荒峰さんって大人っぽくて落ち着いてるから、
同い年に感じないって言うか…
_____ヤクザみたいな危ない人と繋がってそう、
って皆が、話してて。
だから氷みたいに冷たくて、
先っぽを触ったら怪我するつららみたいって事で『氷』。」
『ひょうき』の『ひょう』は『氷』の事だったのね。
訂正というか、
問い詰めたいところもわんさか有るけれど、
ここは取り敢えず誤解をとかないと
涙目になりながら話をしてくれた
松井さんが可哀想よね。
「前半はまあまあ許容してもいいけれど、
後半は全否定するわ。
ヤクザなんて私だって怖いもの。
そんな危なくて非生産的な事をする人たちと
同類に思われるなんて心外だわ」
その私の言葉を聞いた松井さんの震えが
ピタッと止まって、
パチリと目を瞬かせた。
「へ…?荒峰さんも、ヤクザこわいの?
荒峰さんは、ヤクザと繋がってて、
『指詰める』とか、
『東京湾に沈めるぞ』とか言わないの?」
私の眉がぴくりとひくつく。
落ち着きなさい私。
この様子だと私の次の一言で私のあらぬ誤解が
松井さんの中で解消されるはずだわ。
冷静に、冷静に、よ。
すうっと小さく息を吸う。
「私はヤクザと繋がっていない。
『指詰める』とか、
『東京湾に沈めるぞ』なんて物騒なことも言わない。」
パチリとまた松井さんが瞬きする。
その瞳がどこかで見た時と同じように
丸く見開かれたかと思うと、
次の瞬間ぐっと眉間に皺を寄せて目を潤ませた。
…なぜ?
私はごく冷静に普通に説明しただけなのに。
泣いてしまいそうな松井さんを見て
私は心中はてなでいっぱいになってしまい、
理解出来なくて、
また何か誤解されるようなことをしてしまったのかしらと
少し焦った。
何故か俯いた松井さんを見てより焦りが増したところで…
「よかっっっっったー!!」