ひと夏の救い
「『氷姫』の意味はわかったわ。
それじゃあ次は、『王子四人衆』について教えて」
暫く待ってみても松井さんの口は空いたままで、
助けを求めて澄晴達に目を向けてみても、
松井さんみたいに頬を赤く染めたまま突っ立っているだけで
意味が分からなかった。
さっきまでぼーっとして汗をかいている様子の無かった
奈良坂君まで一緒に。
というわけで、
業を煮やした私が結局冒頭の言葉を放ったってわけ。
そんなに暑いかな。
私の感覚がおかしいだけかしら。
まあ、それはともかく。
空き教室の彼女達の件で、
澄晴たちが『王子』なんて
ふざけた呼び方をされているのは知っているけれど、
その他は何も分からない。
知ろうともしていなかったから。
だから、自分の噂その二の事を質問した。
その言葉を受けて、
パチリと一度瞬きした松井さんは
ハッと我に返った顔をして
ぽっかり開けたままだった顎を手で押し戻していた。
それで、一瞬目を瞑ったかと思うと、
今度はカッという効果音でも着きそうな勢いで
目を見開いて、目の瞳に私を移した。
「荒峰さん!」
「ひゃっ…な、なによ」
いきなり大きな声で名前を呼ばれたものだから
変な声が出てしまったわ!
は、恥ずかしい…。
でも、その後になんとか毅然とした態度を保って、
我ながら迫力のない睨みを向けて言い返した。
それを見た松井さんは、
何故か真剣な眼差しで私を見詰めたかと思うと、
次の瞬間には目にも止まらぬ速さで
私の目の前に寄ってきていた。
は、はやいわ。
運動神経が良いと
ここまで人間離れした技を使えるのかしら。
…地味に羨ましわね。
見当はずれな事を考えながら
ちょっと身長が私より高い松井さんを、
驚いたことを悟らせないように睨みあげる。
それを見た松井さんは、
真剣な表情を険しくして私の目を見ていた。
いきなり何よ。
今更文句でも言うつもり?
上等よ。受けて立つわ。
何を言われても良いように、
ぐっと体に力を入れて足を踏ん張った。
「荒峰さん…いや……」
言いながら目を伏せた松井さんが、
ぎゅっと目を瞑る。
私は拳に力を込めた。
「明ちゃんと呼ばせてください!それと…」
「あたしと友達になってください!!!!」
え
いま
なんて?