ひと夏の救い

「あ、違った。アキラちゃん!!」

ガシッと肩を掴まれて揺さぶられる。

うぷ…気持ち悪い、かも…

目が回ってきたところで
今度はいきなりぎゅーっと抱きしめられて、
それも吹き飛んだ。

な、ななななにを!??
この格好はもしかしなくても、ハグ!?
お姫様抱っこに続き
何が起きているのか分からない!
私、混乱しているわ!!!!?

「と、突然何をするのよ!あなた!
いくらおと、お友、だ、ち、だからってね!!!
いきなりされたら驚いてしまうでしょう!?もう!!!」

お友達、の所が少し小さくなってしまったのは
言い慣れていないから…恥ずかしかったの
でも!驚かされて怒っているのは本当なんだから!
お、お友達だとしても!!
…謝ってくれるなら許さなくも無いけれど……。
本当に驚いたんだから!

「あ!うん、ごめんなさい、アキラちゃん。
アキラちゃんはこういうのなれてないんだったよね?
あたしが気を使わなきゃいけないのに、
本当にダメダメだよね〜あはは…」
「べ!!!…ぁ、んんっん!!
…別に、そこまで自分を卑下しなくてもいいわよ。
謝ったから、それに…お友達、だから許してあげる
…嫌なわけでは無かったし」

…顔が熱い!どうしよう!
私らしくないこと言っちゃったわ!
引かれた、かしら…?

言いながら自分の言ってることが
変に思えてきて
咄嗟に大きく目を逸らしてしまったから、
今更元に戻すのは怖い。

見たくないけど見たい。
そんなちぐはぐな感情のままじっと俯いていたら、
「アキラちゃん」と優しい声で松井さんが私を呼んだ。

その後、
少し間を置いて「抱き着いてもいい?」って
松井さんが聞いてきたから、
少しだけ考えた後
ギシギシ錆びついたみたいな音がしそうな程
ゆっくりうなづく。

そしたら、
私の視界に松井さんのものだろう手が写って
今度は緩やかに抱きしめられた。

「アキラちゃん、ピアノとっても上手で
綺麗で驚いたものだからつい興奮しちゃった!
あと、今の言葉であたしが本当にアキラちゃんと
友達になれたんだってわかって嬉しかったよ!
許してくれてありがとう、ございます!」

えへへ、と松井さんの気の抜けた笑いが続く。

松井さんは結構スキンシップの激しい人だったみたい。
いちいち距離が近くて驚くけれど、
全く嫌だと思わないのは松井さんの人柄
みたいなもののせいなのかしらね?

松井さんが思っていたほど悪い反応を見せなかったから、
というかむしろ嬉しそうにするものだから
沈みかけていた気分が浮上する。

身長が高めな松井さんの肩に顔が隠れているのをいい事に、
ニヤつく変な顔になりそうなのを必死で抑えた。



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