ひと夏の救い
「よぉーし!
じゃあ荒峰が言う通り、
まずはトイレの幽霊だな!!
行くぞ!おー!!」
「いきなりどうしたのよ。
探検を始めた時より元気じゃない。
しかもいつの間にかピアノを元通りに片しているし」
「まこっちゃんは
サッカー部のエースストライカーだからねェ。
そうじゃなくても昔からすばしっこかったし。
隣歩いてたと思ったら
いつの間にか遥か前の方を走ってて、
勝手にずっこけてる時もあったんだよ?」
「誠はおっちょこちょいでいつも何処か
怪我していたな。
危なっかしくて目が離せない。全く」
「よっ、お母さん!」
「茶化すな、澄晴」
「…ていうか、
さっき少し寝たから余計有り余った元気が
飽和してるだけでしょ。
僕は余計眠くなったけど…ふあ」
「納得したわ」
しゃべくりながら音楽室を出る。
呆れるくらい元気が有り余っているらしい
木下君を先頭として、
『トイレの怪談』の場所を目指して行く。
と、忘れた頃にやってくるとはこのことを言うのか。
「あ!!また矢印があるぞ!」
「え、またぁ?」
「これをやったやつは一体片付けをどうするつもりなんだ。
ペンキのように見えるが、
何にせよ落ちにくそうだな」
「…ち、」
「ん?なんか言ったか!岬」
「いーや、なんも…ふあ」
「もう気にしないで行こーよ。
別に怖くはないけどさ。一々気とられても仕方ないし」
「そうだな。松本みたいに夜に学校来ている奴が他にもいるのかも知れない」
流石に三回目とあって驚くような人はこの中にはいなかったみたい。
かくいう私も二回目以降から慣れていたけれど、
一体誰がいつ、
何の目的でこんな事をしているのか。
それが全く理解出来なくて少しだけ気になる。
東雲君の言うように、
松本さんみたいに夜に学校で何かしている
生徒がいるのかもしれないし、
若しくは可能性的にほぼ有り得ないけれど
澄晴たちのように怖いもの見たさで
七不思議探険をしているような
人がいるのかもしれない。
無いとは思うけれどね。
あとは---
「本当に、『出た』か」
ポツリ、呟いては見たけれど
そんな非科学的な事を
真剣に考えている自分がおかしくなって
少しだけ笑う。
幸い、誰にも聞こえていなかったのか
私を振り返って見る人はいなかったので、
少し遅れて離れた距離を早足で詰めた。