ひと夏の救い

「どうした?気分が悪いのか?」

きょとんとしたように私の顔を覗き込まれたけれど、
ええ最悪よ、なんて答えて余計な心配をかけるわけにもいかないし、
でも言葉を出す気力も無いしで緩く首を振っただけで返事をした。

「大丈夫だ」

頭をふんわり優しく撫でられた。

全く予想していなかった行動に一気に体が固まる。そういえば今のこの格好は…だき、しめられているという状況では無かったか。

大丈夫って何がかしら!?今の格好が大丈夫じゃないのだけれど!!

今更気付いて顔が熱くなる。
近い近い。密着しているせいで暑いし、転ぶと思って突き出した手のひらに触れる身体は見た目に反してガッチリしているし、なんだかいい匂いもっ…て変態みたいじゃない私のばか!

私の脳内が混乱中の中、まるで気にしていない目の前のこの人はさっきの足音が去って行った方を見つめて言った。

「幽霊じゃ無かったな。えっと…『 徘徊するお化け』みたいな七不思議」

木下君もそうだったけれど、なんて曖昧な認識なのかしら。
これで探検だなんて言い出すんだから驚きよね。

それにしても、幽霊じゃ無かったって。
…徘徊する幽霊は確か、学校中を黄色く光る不気味な一つ目の怪物が徘徊しているという怪談。
捕まったら『この世界では無い何処か』
に連れ去られてしまうらしいというもの、だったわよね。

でもさっきの足音は明らかに、その、用を足していた男の人のようだったし、男の人がこの時間学校内を歩き回っているって、じゃあ音楽室に向かう途中見たあの光は勘違いじゃない…?

もしかして、

「『黄色く光る不気味な一つ目』って、懐中電灯の事で、『徘徊している』のはまさか…学校の夜間警備をしている人?それなら、捕まると連れていかれる『この世界では無い何処か』って」
「警備員の待機所か、もしくは捕まったやつの家…だな」

呆れた。
七不思議は、言い始めた人が七不思議それぞれ全部違う人で、実際に体験したんだって言い張って広めているという話もあった。
今在籍中の生徒が言い張っているという話よ。

仮にも『この学校に伝わる』なんて形容詞をぶら下げている七不思議の話が、
そんな直近で出来上がっただなんて変だと思って無視していたけれど、
もしそれが本当だとしたら。

という事はそれ、誰か生徒が警備員さんに捕まったことがあるっていうことでしょう?
…ばかなのかしら。

そうしたら今の所、『空き教室』も『音楽室』も、『徘徊する怪物』まで生徒の仕業と言うことになるわ。
誰が何を起こして捕まったとか、何を目的として学校に侵入したかは知らないけれど、とんだ間抜けね。
…あら、もしかしてこれ全部私に跳ね返ってくる?

いや!違うのよ!澄晴に無理やり連れてこられただけで!
いいえ、無理やりではないけれど…同意は一度もしていないのよ!
だから私がそんなおばかなことをしている人達と同類だなんて…断固として違うわ!!

< 87 / 145 >

この作品をシェア

pagetop