ひと夏の救い
窓に近い場所に校内でも大きい木が立って月明かりを遮られた図書室は、
今まで行ってきた教室の中でも特に暗い。
入口の方はまだマシだけれど、
本棚の奥の方に行けば行くほど暗くなり、
微かに聞こえていた外の音さえ届かなくなって静かになる。
『しばらくここにいなさい』
暗い、暗い場所。
光を入れる扉が静かにしまっていく。
『待って!私、何をしたの?教えて!ちゃんと直すから、お願いします。出してよぉ…』
パタリ、ガチャ。
鍵を閉められてそれから、
夜になって朝を迎えるまで私はずっとそこにいた。
懐中電灯の灯りが動くのにハッとして慌てて頭を振る。
…あんまり静かだとなんだか余計な事まで考えてしまいそうで、
早くここを出たくなった。
「ここの本棚でも…ないな」
「…もう、次に行ってしまっていいんじゃないかしら?
どうせそんなものある訳が無いのだし、
図書室まで来て探している事は事実なんだから、
やってみたけれどダメだったって、そう言ってしまえばいいのよ」
らしくなく、おどけたようにそう言ってみせたら、
帰ってきたのは真剣な眼差し。
「確かに探して見つかるものなのかどうかも分からないし、
最後まで見てみた所で結局無いというオチかもしれない。
しかし、俺は一度やると決めた事は止めるに足る理由がない限り、
どんな事であろうと出来るだけやり遂げたいと思っている。
それが例え七不思議探検でも、な。
それに折角半分見たのに、途中で終わらせるのは変にやり切れなさが残る気がするんだ。
後は俺が探すから、荒峰は着いてきてくれるだけで、
いや、なんなら図書室を出て待っていてくれてもいいから、もう少し時間をくれないか?」
私が勝手に言い出したことなのに
こちらを気遣う言い方をする東雲君を見て、
自分が子供みたいな事を言い出したことに気付いて
なんだか居た堪れない気持ちになった。
「…別にダメだなんて言っていないわ。良いわよ、私も探す」
「本当に良いのか?」
「そう言っているでしょう。何よ、実は私に離れて欲しいからそう言ったの?」
「い、いやそんなことは無いが…じゃあ、なるべく早く終わらせよう」
「ええ」
ふう、と小さく息を吐いた。
東雲君って本当に生真面目な人ね。
大体この探検だって勢いで始めたようなものなのに、そんなに真剣な気持ちになれるなんて。
融通が効かない人とも取れるけれど、
なぜだか私の心に嫌だとか面倒くさいだとかっていう気持ちが湧くことは無かった。
変な人の周りに普通の人なんているわけなく、
やっぱりこの人も変なんだわ。
そう思ったら、さっき浮きかけていた不安な気持ちが薄れていることに気付いた。
私に言ったことで勇んで本探しを始めた東雲君の後ろ姿を見ながら、
小さく笑みが零れる。
さて、私も探してみよう。
そう思って目線を向けた先、図書室の最奥の本棚、その右下端に、
さっき言った特徴と類似している黒い本があった。
気持ちを入れた瞬間の出来事に、思わずドキリと驚いたけれど、
今は暗い図書室。影でそう見えただけかも知れない。
知らずゴクリと喉を潤しながら、
その本に手を伸ばした。
今まで行ってきた教室の中でも特に暗い。
入口の方はまだマシだけれど、
本棚の奥の方に行けば行くほど暗くなり、
微かに聞こえていた外の音さえ届かなくなって静かになる。
『しばらくここにいなさい』
暗い、暗い場所。
光を入れる扉が静かにしまっていく。
『待って!私、何をしたの?教えて!ちゃんと直すから、お願いします。出してよぉ…』
パタリ、ガチャ。
鍵を閉められてそれから、
夜になって朝を迎えるまで私はずっとそこにいた。
懐中電灯の灯りが動くのにハッとして慌てて頭を振る。
…あんまり静かだとなんだか余計な事まで考えてしまいそうで、
早くここを出たくなった。
「ここの本棚でも…ないな」
「…もう、次に行ってしまっていいんじゃないかしら?
どうせそんなものある訳が無いのだし、
図書室まで来て探している事は事実なんだから、
やってみたけれどダメだったって、そう言ってしまえばいいのよ」
らしくなく、おどけたようにそう言ってみせたら、
帰ってきたのは真剣な眼差し。
「確かに探して見つかるものなのかどうかも分からないし、
最後まで見てみた所で結局無いというオチかもしれない。
しかし、俺は一度やると決めた事は止めるに足る理由がない限り、
どんな事であろうと出来るだけやり遂げたいと思っている。
それが例え七不思議探検でも、な。
それに折角半分見たのに、途中で終わらせるのは変にやり切れなさが残る気がするんだ。
後は俺が探すから、荒峰は着いてきてくれるだけで、
いや、なんなら図書室を出て待っていてくれてもいいから、もう少し時間をくれないか?」
私が勝手に言い出したことなのに
こちらを気遣う言い方をする東雲君を見て、
自分が子供みたいな事を言い出したことに気付いて
なんだか居た堪れない気持ちになった。
「…別にダメだなんて言っていないわ。良いわよ、私も探す」
「本当に良いのか?」
「そう言っているでしょう。何よ、実は私に離れて欲しいからそう言ったの?」
「い、いやそんなことは無いが…じゃあ、なるべく早く終わらせよう」
「ええ」
ふう、と小さく息を吐いた。
東雲君って本当に生真面目な人ね。
大体この探検だって勢いで始めたようなものなのに、そんなに真剣な気持ちになれるなんて。
融通が効かない人とも取れるけれど、
なぜだか私の心に嫌だとか面倒くさいだとかっていう気持ちが湧くことは無かった。
変な人の周りに普通の人なんているわけなく、
やっぱりこの人も変なんだわ。
そう思ったら、さっき浮きかけていた不安な気持ちが薄れていることに気付いた。
私に言ったことで勇んで本探しを始めた東雲君の後ろ姿を見ながら、
小さく笑みが零れる。
さて、私も探してみよう。
そう思って目線を向けた先、図書室の最奥の本棚、その右下端に、
さっき言った特徴と類似している黒い本があった。
気持ちを入れた瞬間の出来事に、思わずドキリと驚いたけれど、
今は暗い図書室。影でそう見えただけかも知れない。
知らずゴクリと喉を潤しながら、
その本に手を伸ばした。