ひと夏の救い
「文字?それが一体…」
「どこかで見たことがある気がするんだ。
この小さくて几帳面な字」
「この字の形に覚えがあるということね。
でも、一体どこで?」
「それはまだ曖昧だが、ただそう昔の話でも無い気がするんだ」
「最近見かけた文字なんて、候補が多すぎて絞れないわね。
家族の字、学校の先生や生徒の字、街中に溢れる字、落書きとか色々あるもの」
「うーん。ここまで来てるんだが」
そう言って手のひらを下に向けた状態で胸の辺りまで引き上げる。
まだ1ページ目しか開いていないから、
もしかしたら次々とページを読み進めていったら何かヒントを掴めるかも知れないわよね。
指の背を顎に添えて考え出した東雲君を横目に、
ペラリと子気味いい音を立てながら
次なるページをゆっくりと捲ってみる。
※注意
・この『予言の書』を他人に見られてはならない
・その時は、見た人間の未来が失われる
・未来を知っても、不用意に改変してはならない
・バタフライエフェクトを警戒するべし
・管理人は記述する際にも他人にバレてはいけない
・その時は、永久の闇に呑み込まれるであろう
・
・
・
ん?と思う。そして同時に納得した。
上から2番目の文。
きっとこれが噂の元なのね。ということは、その人はこの本?を読んで無事に噂を吹聴している事になるけれど。
やっぱり、怪談なんて眉唾ものね。
それはそうと、何だか不思議と続きが気になるわ。
一体この先には何が書かれているのかしら。
自分でも知らないうちに人の日記を覗き見ているようなドキドキ感が胸に湧いて、
少しワクワクした気持ちで次のページの端を掴む。
もはや東雲君に文字の正体を思い出してもらおうと
ページを繰っていた事を忘れかけていた。
「あ、そうだ。この字は……」
東雲君が合点が言ったという風に顎から指を離すと同時に、
バサッ
と手の中にあったはずの黒い重い本が消えた!
いきなり軽くなった反動で、
本を抱えていた両腕が跳ねる。
「え?」
思わず驚愕した声を出してしまってから、
本が消えた上の方向に目線を移す。
視界の端には私を、
というよりは私の後ろを見て驚いたように目を少し大きく開いた東雲君が写った。
目線をゆっくりと斜め後ろへずらしていく。
その先にあったのは________
黒い影。